「音楽室」
を、作ろうと思ったのです。
自分の心に寄り添うようなアトリエ。
ピエールの音楽室です。
部屋の中に作るので広さはそんなに広く出来ないけれど、
対角線でギターが弾ける幅と、バイオリンの弓が座って楽に動かせる高さ、
と考えて1000mmX1090mm、そして高さが1850mm
これはぎりぎりの大きさなのだけれど、
建築材料というのは、ほとんどが910mmX1820mmっていうサブロクという規格なので、
それに45mmの角材をあわせた時に一番無駄のないサイズにしました。
骨組みを45mmの桂の角材で作って、壁は外側から
@12mm構造用合板(家を作るときの構造部分に使う丈夫な合板)
A遮音シート(2mmくらいの厚さで鉄の粉を混ぜ込んだゴムの重たいシート)
Bニードルフェルト(10mmくらいの厚さのフェルトを圧縮した物)
C9mm石膏ボード
Dプロファイルスポンジ(波波の凸凹スポンジ。)
そして、床は作りません。吸音カーペットの上にかぶせる構造。
遮音(防音)の能力はそれほどでもないけれど、僕の音楽にはこれで充分です。
それよりも録音のための内側の吸音と調音をしっかりとしなくてはなりません。
木材と石膏ボードは、すぐ近くの材木屋さんに頼みました。木材に囲まれた良い匂いの工場に図面を持っていって、のんびりなおじさんと一緒に寸法どおりにカットしていきます。
大きなカットにはやはり大きな丸ノコが必要。家での作業は部屋の中になるので、ある程度カットしてから部屋に運び込むのです。おじさんにお昼代をおごってあげて、家までトラックで運んでもらいました。
構造用合板と石膏ボードが7枚づつ。
45mmの角材が21本
全部で¥15000-くらいかな。
一日木の香りに包まれて。良い一日でした。
写真は部屋で骨格を組んだところ。
接着剤を入れて90mmの木ねじで組みます。合板はまだはめただけ。
手前左が入り口のドアが付く部分。ドアの幅は570mm
こんな感じで椅子とマイクスタンドなどが入ります。
ドアの枠を組む。
枠とドアの隙間は上下左右2ミリ。
ヒンジ(兆番)が右側なので、微妙に左上がりのひし形に組みます。
といっても数ミリだけど。
なぜかというと、ドア自体がすごく重くなるので、そうしないと下が摺ってしまうのです。
防音室として見た場合に 一番重要なのは密閉性です。 そのために、ドアの周囲はパッキンでふさがれます。
そのパッキンを締め付けるには専用のハンドルが必要です。
密閉ハンドルと言うもの。
これはタキゲンと言う会社のもの。
すごく考えられています。
その横は兆番。
アンティークの、真鍮製。
この部屋の金物はなるべく真鍮でそろえます。
壁の組み方はちょっと変わってます。まず、骨組みの内側すべてにプラスチックのL字形のアングルをねじで止めていきます。壁になるところ全部なので、結構な長さが必要です。1820mmのアングルが19本必要でした。留める為のねじは600本。根気が必要です。
そして、それが出来たら構造用合板をそのアングルにねじ止め。このときは鉋(かんな)でぴったりの大きさに隙間なく調整してさらに接着剤で完全に密閉するように組みます。
そしてその合板の内側に遮音シートをガンタッカーで張り、さらにニードルフェルトをやはりガンタッカーで張って、それから9mm石膏ボードを張ります。
石膏ボードはコースレッドという専用のねじで留めます。 そうしないと石膏は割れてしまうんです。
フェルトと遮音シートを貫通して12mmの合板にねじが効いてフェルトを圧縮し、さらに合板からねじの先が出ないように、ねじは32mm
。
このやり方で壁と天井とドアを作ります。
写真は、骨組みを一旦倒して、天井部分です。まず天井を作らないと・・・立てた状態だと大変な事になります。
上を向いてするのは材料が落ちてくるので無理なんです。
この部屋には二つの窓がつきます。
一つは320mmX320mmの正方形。ドアのある側の横の壁。
ここからコンピュータのモニタが正面に見えます。
写真は窓枠を組んだところ。
窓自体は厚さ40mmのアクリル板です。
もう一つは横の壁に。160mmX800mmの細ーい窓。
アクリルでもよかったのですが、こちらはトステムのペアガラス(2重ガラス)サッシ屋さんで余ってたのを安くもらって来ました。ガラス3mm空気層6mmガラス3mmと言うもの。
窓というのは、防音的には不利な物です。
でも心にとっては、とても大切なものです。
さらに、そのさきに何が見えるか?という事も。
対角線の一方の位置に座った時に、右の窓は正方形で、
そこからは、コンピューターのモニターが見えます。
そして、左の窓は細くて壁の幅いっぱいの長方形。
そこからは少しはなれて、
間接照明に浮かぶスピーカーなどの空間。
どちらも目の高さです。
もしこの窓がなかったら・・・
僕は、ここに居られません。たとえ目をつぶっていても。
そして、窓の上の壁の部分は 換気装置。
これがないと酸欠となります。
この四角い箱の中は真ん中に仕切りがあって、右から入った外気は、壁の中部に作った通路を通ってから窓の上あたりの給気口から室内へ。座った時にちょうど顔の辺り。
左側には8cmのAC100vで回るファンが入っていて、室内の空気を吸い出します。
室内の吸出し口は座ったときのちょうど頭の上辺り。高い位置で吸い出して、冷たい外気と温まった内気が循環する構造です。
室内の窓の前には小さなテーブル。
ここが一番作っていて楽しい。
幅が400mm奥行き140mmの小さなテーブル。
材料はポリウレタン塗装されたつるつるのMDF(木の粉を固めたもの)
棚受けの金物はイギリス製の真鍮で本当は下側に付けるんだけれど、見てるだけで良い気持ちなので上側に付けました。
テーブルの上に必要なのは、コンピューター操作用のテンキーとマウスです。
テンキーはドイツ製のメカニカルキースイッチを使った物、マウスは初期のマッキントッシュをデザインしてたフロッグデザインがデザインしたもの。
右の奥には照明と換気扇のスイッチが見えますが、
最終的には、照明自体をここに付けて、
スイッチ類はテーブルのすぐ下の壁に付けました。
その方が光が良かったから。
照明はライトコントロールで、明るさを調整できます。
イギリスの棚受けと同じメーカーのC型フックを窓の横につけます。
ここはヘッドホンを掛ける場所。
このフックと棚受けが室内の気分を作っています。本当に良い品です。
プロファイルスポンジもそろそろ張り始め。
スポンジは内装用の幅の広い両面テープで張っていきます。
ドアの内側と天井の一部は吸音装置を付けるので、それ以外の部分に張ります。
1Mx2Mで¥3500-くらい。3枚使いました。
これは鉋屑。カンナクズ。カンナクズって綺麗ですね。
そして、
これはドアの方。
こちらは、パッキンとアルミアングルの分だけ、2段階に削ります。
この作業は道具が有れば何の事はないのですが、
道具が無いので、筋引きとノミと木工ヤスリで。
今回一番大変な作業でした。
4辺掘り込むのに3日もかかりました。
せめて際鉋が有れば。。
道具の偉大さを思い知るのです。
ほら、夜になっちゃった。
やっと削れたドアに密閉ハンドルをつけます。
内側と外側のハンドルは10mmのアルミの角材で連結します。
その穴が真ん中の穴。
その上下の穴は中に「高ナット」という40ミリほどの長さのナットを埋め込みます。「ボルトとナット」のナットです。
ハンドル自体は、このナットに両側からボルトを咥えさせて、ドアを挟み込んで締め付けます。
これは内側。こうやって動きます。右に飛び出した棒が受けの金具にはまってドアをギューっと押さえ込みます。
部屋と言うのは、どんなものでも、それぞれその大きさによって固有の共振してしまう周波数を必ず持っています。
その音の高さ(むしろ低さ)は、並行する壁と壁の距離で決まっていて、その距離、あるいはその2分の1の距離が、ちょうどその音の波長の長さになります。
とくにその2分の1の波長の音は天井や壁に近いあたりで最大になり、部屋の中心あたりでは逆にまったく聞こえないと言う、とても厄介な共振です。聞こえないのに頭の上に低音の気配を感じる・・・
でもここで作った仕組みは、この部屋の内部の固有振動もよく吸ってくれます。
角材と、天井の一部と、壁の上部、を利用して、四角い筒状の部分を天井の角に作ります。
その部分の側面と下面に有孔ボードを張り、そしてそのボードの内側にグラスウールを張ります。
これで空気層300mmの出来上がり。
100Hzから250Hz位までの低音を吸ってくれます。
特許取れる?・・・・
そしてこの四角い筒の下面のちょうど頭の上辺りに空気の排気口を作って、換気口につなげます。
これで換気扇の音もかなり小さく出来ます。
給気口と 排気口
窓のちょうど正面がデスクで、
コンピューターのモニターが見えます。
音楽室の中にモニターは置きません。
録音のソフトをマウスとテンキーで
操作します。
もちろんデスクでも普通に操作できます。
この方が、誰かの録音をするのにも、
良いです。
ブースみたいに使えます。
ここ、「ピエールの音楽室」で
録音してみたいという方、
ご相談ください。
中で楽器を弾いた時の音は、反響の抑えられた音で、楽器の音だけが聞こえる感じになります。
マイクを通して録音した音はとても近い音で耳元にある感じです。
自然な反響が欲しい時には、内部に反響板を設置する必要がありますが、
また、中にアンプを置いて、ドアを閉めて、ヘッドホンの配線を利用して音楽室の外から弾く事も出来ます。
大きな音で鳴らしてもドアの外には小さくしか聞こえません。
クラシックギター、バイオリン、歌などなら、少し離れればほとんど聞こえない感じで、遮音の能力は僕にはこれで充分です。
いかがですか?
アトリエ。。
なんて呼ぶには笑ってしまうほどの、小さな小さな音楽室です。
でも、大切な事は、作業のために必要な事柄だけではなく、
自分の気持ちにとって必要なものが、
出来る限り一番良い形でそこに有るということです。
僕にとってのそれは、小さなテーブルに置くコーヒーであったり、照明であったり、窓であったり・・・
だから、僕にとっては確かに大切なアトリエです。
我ながら笑ってしまいますけどね。。。
こうして、
音楽室が出来上がりました。
この中に居ると外の音は
ほとんど聞こえません。
電話が鳴っても・・・・
今回、この部屋のドアの裏と天井の一部に作る吸音装置は、ヘルムホルツ共鳴を利用した吸音構造というものです。
小さな穴がたくさん開いた「有孔ボード」と言う板の背後にグラスウールなどの多孔質吸音材と言われるものを配置して、それとその後ろの固壁との間にある程度の空気層を設けて作ります。
穴の大きさや数、グラスウールなどの密度、そして空気層の厚さなどの調整で、吸音する音の高さや量をコントロールできるものです。
ドアの内側は空気層20mmで主に500Hzから2KHzくらいまでの吸音に。
そして、この部屋で一番重要な低い音の吸音は、
天井の一部に空気層300mmで作ったこの装置で行います。
ドアが付きました。
室内の枠の方にハンドル受けの金具をつけます。
これが吸音の仕組み。
スムーズです。重い重いドアなので兆番は5個。
ドアの内側には吸音措置が着くので、18mmX38mmのツーバイフォーSPF材でそのための枠を付けておきます。
はい、出来上がり。外側のハンドルには飛び出した棒は有りません。
それぞれの部品は自由に組み替えて、内開き、外開き、右ドア左ドア、すべてに対応できます。
そしてドアの中を彫りこまなくてよいので、取り付けは
普通のドアハンドルよりずっと簡単です。
これはドアがはまる部分。
ここはアルミのL型アングルに皿ねじ用の穴を10センチ間隔であけて、枠に固定していきます。
それにシリコンゴムのパッキンを張る。
これが密閉ドアの受け側です。
これは窓の下の方、外側。
100Vの電気とコンピューターのUSBとヘッドホンケーブルと
マイクケーブル2本がここを通って室内へ入ります。
室内側、USBと100Vのコードはスポンジの裏へ、プレートには右から予備のコンセント、ヘッドホンジャック、マイクケーブル2本は直出しで細いもの、ベルデン1603A。USBはさらにテーブルの下で小さなハブへ行ってテンキーとマウスへ。
照明を付けたところ。15ワットの小さな電球、ミシン球って言います。
音は不思議なものです。
年末に引越しをして、新しい部屋になったら、音がすごく響くようになりました。
それ自体は良い気持ちなんだけど、録音するとなにかが違う。。。
音が遠い。。。
反響は良いのだけど、耳元でささやくようなのが録れない。
・・・・・・音がこちらを見ていない、
これは僕の音楽と違うな・・・と
そこで、音楽室を作ろうと思ったんです。
自分だけの放課後の音楽室のような。
ギターやバイオリンが弾けて、録音の為の道具の操作が出来て・・・
そして何より、細部まで自分の気持ちにぴったりで、発想の助けになるような。
音楽室という名前の小さな小さなアトリエです。