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2006/8/4

映画のついでに、 久しぶりに日比谷あたりを歩く。
日比谷シャンテの前の広場には、潅木の間に小さなガラスの建物がある。
今は美容室になっているけれど、かつてそれはとてもオシャレなカフェであった。
広場の噴水と一体になったような造りで、外から見ると噴水の水面に浮いているように見える。
そしてそこは全面がガラス張りの建物だから、 そこに来る客にとっては、外を歩く人々に自分の姿を見せ付けることも、メニューの一つであった。
表参道がカフェフロールやオーバカナルで隆盛を極める少し前のことだったから、 そこは、観られるということを演出として取り入れた最初の店だったのかもしれない。
その店の向かい側、ハナミズキの街路樹を隔てて、1930竣工の見事な建物がある。 その名を「三信ビル」という。
この建物の造作の見事さを知っている人は少なくない筈だけれど、 それが後僅かで消え去ることを、知っている人は少ない。
建築にかかわった人々がその技術と誇りと洒脱の粋を集めて注ぎ込んだような、この愛の塊が高々70余年で消え去る。
惨めな町、東京。
70年は人の一生にもたりない。長いか?短いか? 全てが個人所有の元に、他人のかかわりを否定され 個人でまかないきれる程度のものしか守りきれない生き方。
家も家庭も、自分自身も。 「愛するものを奪われてもなお、憎しみを抱かずにいる為には 愛さない事だ。もともとあなたのものではないのだから・・・」 そんな言葉を無言のうちに聞かされる。
傷付く事に疲れ果て、愛を遠ざけて仕舞うのか、 ならばそんな街を愛する事など出来るはずもないではありませんか。
でもほんとはみんな愛したいのです。
愛されるために。 愛すれば、傷つくし、みにくい心や辛い事を乗り越えなくてはならない。
だから代わりのものでごまかしてしまう。
表参道がオープンカフェで埋め尽くされていた頃、個人は見知らぬ人々とのかかわりを頼りに自分のアイデンティティーを探っていました。
そこはパフォーマンスの場所でもあリ、人の目が自分を磨き、自分の目が人を磨いていた。 今、そんなカフェは全て消えうせ、表参道はダイヤモンドに絵の具を塗ったようなブランドのコンビニでしかない。
人々は疲れてしまったのか、かかわりは個人に収束しようとしている。
感動は消費するものになってしまった。
惨めな街、東京。 しばらく三信ビルの縁の腰掛けて建物の消え行く体温を感じた後、 宝塚の横を抜けて、帝国ホテルのロビーに落ち着いた。
僕は4年間だけれど、ホテルで演奏していたので、 内情も少しは知っている。 一部の金持ちや貴族達を相手に商売が出来た最期の頃。
その世代がリタイヤすると、ホテルは急に立ち行かなくなった。
成り上がりのニューリッチたちは、自分の狭い見識でしか振舞えなかったから、 特権階級が共同で支えてきた幻想の品格を一気に崩し去ってしまった。
ホテルは銀行からの出向役員に支配され、封建に磨かれて黒光りしたようなベテランのホテルマンたちは去っていった。
かつてのホテルは、治外法権の伏魔殿であったけれど、魑魅魍魎たちも寿命には勝てなかったのだろう。
先日亡くなったシェフの遺影がロビーの片隅に有った。
待ち合わせ風でもない僕に怪訝な目を配るフロントをやり過ごして 日比谷公園へ、 高級ファブリックのソファーから、ブルーシートの草庵へ。
交番横のトイレはゲイの治外法権だけれど、うっかり入ってしまった。 邪魔しないようにそっと使わせてもらう。 手を繋いで入ってくる50代のカップルもいたりする。
いやはや、東京。愛の街か・・・
重要文化財明治生命ビルの横をとおり、夜の丸の内を歩く 文化財指定を受けたこちらのビルはさしあたり生き長らえるだろうが、 解体間際の今まで生きて使いつづけられ、体温を持っている三信ビルが打ち捨てられるのに対して、こちらは言わば、ホルマリン漬けのよう。
傷も付けぬように冷たく飾られていた。 丸の内は、会社というものを全く知らない僕には全く未知の世界だけれど、 10時を廻ったこの時間には残業明けの人がまばらにいるだけで、 その本来の姿とは違い、ただ建物が抜け殻の列。
そんな中で、一箇所、若いOLやサラリーマンが大勢集まっている一画があった。 ビル街の公園の道端に椅子とテーブルを並べてトラックに造りつけた厨房で営業する居酒屋。
客はあふれていて、全員会社員の格好をしているけれど、 その騒ぎ方は学園祭の学生と同じ。 僕は到底入っていけない。
明かりも消えて、人の居ないビル街の真ん中。
まぼろしのよう・・・
でも彼らからしたら、
その横を静かにとおりすぎる僕は、 音も無く、見たことすら曖昧に思える、
カゲロウのようなものか。。
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