寄り添う音楽、 その弟、
--monochrome side--
姉は30歳になった時、前触れも無くフラリと一人で旅に出てしまいます。
3歳年下の弟は、急にこの街を去った彼女に替わってその小さな喫茶店を引き継ぎました。
他にも仕事を持っていた彼は、平日の夜遅い時間にだけ店を開けます。
仕事といっても、それは自宅で出来る種類の職業でしたから、
夜、自分の喫茶店に向かって出勤するのは、ちょうど良い気分の切り替えになりました。
時には、仕事の構想にぼんやり思いをめぐらせながら、
夜通し店で過ごす事も有ります。
お客さんの為と言うよりも、むしろ自分がその店で過ごす時間を残しておく為に、
彼は店に明かりを灯しつづけていたのかもしれません。
店の雰囲気は、姉の色から次第に彼の色へと代わって行きましたけれど、
やはりどこかに同質な気配を残していました。
それは二人が同質だからと言うよりも、彼が、敢えて、あるいは無意識に、
姉の気配を残そうとしていたからなのかもしれません。
彼の姉に対する思いは、少しだけ倒錯していました。
でも、その事は本人にも充分わかっていましたし、
何よりも姉が、そんな弟との関係を上手にしかも魅力的に育ててきたのでした。
溺れるか、溺れないか、のギリギリのところで・・・
我ながら、イカレテル、なんて思ったりしながら・・・
店には時々、
姉を訪ねて、普通の関係では無かったことが、なんとなく察せらるような男性が、
何人かやってきました。
みな、かつて姉がいた場所をしばらく眺めては、
秘め事を噛み締めるような、愁いた目をして押し黙り、
しばらく、静かに過ごしては去ってゆきます。
姉にはいったい何人の恋人がいたのでしょうか。
弟の彼にとっては、それは、驚くような事ではありませんでした。
なぜなら、姉が「風見のつばめ・・・」のという名前を口にするとき、
その音にはある種のエクスタシーにも似た魔力があったからです。
弟は、そんな男達が一人また一人と削げ落ちていくたびに、
姉が一歩一歩自分のもとに近づいてゆくような心の感触を味わい、
同時に自分も姉への倒錯が少しづつ浄化してゆくのを感じました。
嫉妬は彼の姉に対する愛のねじれの源でもあったからです。
この店で、姉と弟はお互いを見つめ、その距離を揺らしつづけたのでした。
彼は今夜も店を開けます。
そのうちフラリと、ちょうど、つばめの様なタイミングでこの街に帰ってくるはずの姉を、
今度は客として迎えるために・・・
それまでの間、彼が聞き続けるお店の音楽は・・・
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@MICHEL / mathieu boogarts(tot ou tard)
「君さえ良ければ 僕たちの隠れ場で やっと聴けるね、お互いの気持ち、(歌詞より、訳junika)」
@METRO/metro(pierre record shop !)
「〜喜びより、悲しみに、なれてしまった夜には、旅に出る理由なんて要らなくなるよ〜(歌詞より)」
@AUTOMATIK KALAMITY/anouk(virgin)
「hi hello,hi hello,comment allez-vous ? こんな風に姉から電話が来るかもしれません」
@LE PHARE/YANN TIERSEN(labels)
「弦楽の介添えにのって、お互いを支え合いながら、ふわふわと笑い泣きの星空まで舞い上がる、心細い天使との円舞」
@LIVE EGOCENTRIQUE/kasibuchi teturoh(moldau disc)
「君はひどく哀しみこらえて涙を見せまいと震える。さよなら冬の恋人。でも、僕は君と・・・(歌詞より)」
@it’s a blue world/mel torme(BETHLEHEM)
「苦味の向こうに在った魅惑的な甘味の想い出」
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